書評・レビュー

非リアな青春を追体験できる、有川浩「キケン」が心に染みた

有川浩の「キケン」という小説の文庫版が書店に並んでいたので、有川浩を作者買いする私は迷わず手に取った。

「塩の街」の初版が書店の棚に並んでいた時から知っている作家で、私の人生の多分10%くらいは彼女の小説に影響されているかもしれない。

「さあ、今回はどんなラブストーリーが待っているのだろうか? 理系技術モノっぽいし、どんな技術が登場するのか楽しみだ」

……そんな私の勝手な予測は、良い意味でがっつりと裏切られることになった。そうか、有川浩ってこんな作品も書けたんだ。

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野崎まど「know」を、愛と欲望を交えて考察してみる

本記事は、野崎まどの「know」を読み終えて「???」となってネットで考察を探してみたものの、いまいちしっくり来ないと思っている読者の方向けに書いた記事です。

というよりも、同じ状況で、いまいちしっくり来なかったので、私なりの解釈をここに書いています。コメントによる議論等大歓迎です。

それだけ議論する価値のある作品だと思います。

よって、ネタバレを多分に含みます。 続きを読む

映画「パリ20区、僕たちのクラス」を観てみた

大人って何だろう? 子供って何だろう?

日本では、法律上は20歳で「成人」として扱われる。しかし、「成人」イコール「大人」ではない。成人でも「子供だ」と言われるし、未成年でも「大人だ」と言われることもある。

僕が「パリ20区、僕たちのクラス」を鑑賞した後にすぐやったことは、「平等」を辞書で引くこと、次に「大人」と「子供」の違いについて考えることだった。

この映画は、現役教師のフランソワ先生が教師役で出演し、フランスにあるごく普通の中学校の1クラスの1年間を描いた映画だ。カンヌ国際映画祭最高賞受賞作でもある。

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【感想・レビュー】映画「楽園追放」を見てみました【ネタバレ考慮済】

巷で何かと話題になっている「楽園追放」を見たかったのですが、映画館に行く余裕もなかったのでiTunesで借りて見てみました。

今こんな風にレンタルできるんですね。便利なものです。

まず感想ですが、とにかく「見ていてワクワクする」作品です。
虚淵玄の作品はまどマギがあったので、また視聴者を試すような展開があるのかと思っていましたが、そんなことはなく、実に正統派な形で構成されており、終始興奮しっぱなしでした。

というか開始5分の時点で脳内麻薬が出っぱなしでしたね。

特に「マトリックス」みたいなサイバーパンクが大好きで、かつロボットアニメ物に興味があり、ネットワークやシステムに携わる仕事をしている僕からすると、なんというんでしょう、「黒髪清楚容姿端麗成績優秀家事万能」みたいな感じの作品です。

「ガンダム」「マクロスF」「エヴァンゲリオン」「サマーウォーズ」「マトリックス」「ブレードランナー」「マルドゥック・スクランブル」このへんが好きな人は是非一回見て欲しい作品ですね。

まぁこの記事の目的は感想を書きなぐるためであって勧誘するためではないので、感想に移ります。

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残念。登場人物の感情に起伏が無く、話に躍動感が無い。「旅に出よう、滅び行く世界の果てまで。」読了

この話は、「喪失症」という謎の病気が世界中を席巻し、人々がゆるやかに消えていく最中の世界で、カブに乗った高校生男女が旅をする物語である。
「喪失症」とは、人が生きていた痕跡が跡形もなく無くなってしまう現象のことで、最初は文書の名前が消え、自分が自分の名前を忘れ、周囲にも名前を忘れられ、やがて身体が薄くなっていく症状だ。

この話の登場人物には、名前が存在しない。なぜなら人物は皆、「喪失症」状態にあるからだ。
主人公とヒロインでさえ、「少年」と「少女」と呼び合っている。非常に奇妙だ。

旅するのは、ことごとく人々が消え去った北の大地(恐らく北海道?)。
そんな中で出会った人たちとの人間模様を描く青春の一冊。

……という話なのだが、ハッキリ言って、この話は非常に惜しい。

作者があとがきで「締切1ヶ月前に書き始めた」と言ってるだけあって、なるほど、全体的にクォリティが低い。
とはいえプロとして作品を出してる以上、時間を言い訳にするのはナンセンスなので、どこが悪いのか書いていくことにする。

1.話の盛り上がりに欠ける

要するに構成の問題。この本は主に3部の構成になっており、それぞれの部で人と出会い、別れる話が描かれている。
しかし、3部の間に物語的意味の繋がりがほとんど存在せず、実質的にアンソロジーというか、短篇集のようなものになってしまっている。かといって、1部ごとに起承転結があって非常に盛り上がるか、と言われれば微妙で、結果的に話が分散していて読み応えが無かった。
どうせなら、きちんと1,2,3のすべての部が最終的に上手く結びつくようにするか、こういう部構成そのものを撤廃したほうが良かったと思う。

2.文章力が低い

同じようなジャンルで先に読んでしまった「世界の終わり、素晴らしき日々より(当ブログ感想)」と比べてしまうのは申し訳ないが、正直言って描写力・文章力共にレベルの低さを感じてしまい、読みながら残念な思いをした箇所が何度かある。無意味にレトリックや比喩を使いまくるのもどうかと思うが、使わないなら使わないなりにもっと上手に描写する術があったんじゃないか、と思う。

3.キャラクターの感情が平坦

魅力がないキャラクターというわけではない。ただ、感情が平坦なのだ。
中盤、とある登場人物が「喪失症」によって目の前で消えてしまう。
その時の会話の一部が、

「僕達には、どうしようもないかな」
「……そうだよね」

なんて会話している。そうじゃないだろう、と。
目の前で人が消えていく。自分たちも既に名前が解らない。進行が始まってる。いずれこうなるかもしれない。そんなことで良いのか? 不安にならないのか?
この話で一番残念なポイントだったと思う。というかこれが致命傷で、この話は面白くない。
旅をやめてその場で自殺しようとするぐらいのシーンは、この年齢の人物ならあっても然るべきだろうと思った。

主人公とヒロイン以外の別な女の子が現れるときも、ヒロインは「少年はきっと私と一緒にいるから大丈夫」なんて言っちゃってるし、そんな、別ルートに入った瞬間良い子になるギャルゲーの幼馴染じゃないんだから、と思ってしまった。
主人公もヒロインも、良い子すぎる。

世界観と設定が凄く良いだけに、話の作りの甘さとキャラクター造形のレベルの低さが露呈されてしまう、極めて残念な作品だった。