電撃文庫のラノベ「賭博師は祈らない」が面白かった

イギリス好きにはたまらない作品

こんにちは、新年あけましておめでとうございます。神乃木リュウイチです。

YouTubeで配信とか動画を増やすということを新年の目標としていたら、だいたい言いたいことをYouTubeで言ってしまってブログに改めて書き示すカロリーが枯渇していたのですが、今日は久々に面白い本を読んだのでその感想でも書こうと思います。

今回読んだ本は電撃文庫の「賭博師は祈らない」という作品で、電撃大賞の2016年金賞を受賞したライトノベルです。だいたい一つの流れができるとその後のフォロー作で埋め尽くされがちなライトノベル業界において、常に新しい作品と作家を発掘し続けている電撃大賞の受賞作というとそれだけで読む価値はあるのですが、今回たまたまBookwalkerの読み放題に全巻入っていたので気づいたら読んでしまいました。5巻で完結しています。

18世紀の混沌としたイギリスを描く時代小説的世界観

ストーリーの舞台は18世紀末のイギリス・ロンドンです。この頃の史実のロンドンは、植民地帝国イギリスがどんどん国力を増していた時期で、大量の人口流入に伴う治安や衛生状態の悪化、貧富の差など、およそ世界中の国々が経験するすべての問題が一挙に吹き出す世界の一大都市でした。

主人公のラザルス・カインドはそんなロンドンで賭博師を営んでおり、口癖は「どうでもいい」。孤児の自分を救ってくれた養父の教え「勝たない・負けない・祈らない」を忠実に守り、賭博場に怒られない程度に生活を続けていました。

そんな彼がひょんなことから「勝ちすぎてしまい」、彼は一人の奴隷・リーラを手に入れます。奴隷として調教されたリーラは、最初はラザルスに恐怖し、拒絶しますが、不器用な二人は不器用なりに距離を縮めていきます。他方、賭博師はという職業は当然トラブルは避けて通れないものであり、ラザルスはリーラとともに事件に巻き込まれていく……といったお話です。

綿密に描かれる世界観と手に汗握る賭博の魅力

ここからはちょっとネタバレも含むかもしれない、この作品が面白いと思う理由について。

ナーロッパとも揶揄される近年の嘘っぽいヨーロッパがラノベ市場を席巻する中、この作品は相当ガチに当時のヨーロッパというかロンドンを調べて書き込んでおり、地名、流行っている酒、キャラの仕草や習慣、どれをとっても非常に精緻な調査の跡が伺え、とにかく全体的な仕上がりの細かさには舌を巻きます。

キャラのセリフや比喩ひとつとっても、世界観を阻害するものがない。作品全体が和音のように「18世紀のロンドン」を奏でていて、読んでいてしっかりとその世界が伝わってくるのがこの作品の大きな売りだと思います。

もちろん、賭博を題材にしているだけあってその賭博の内容も非常に濃く描かれています。賭博と言えば「マルドゥック・スクランブル」が浮かぶ私ですが、この作品の賭博はブラックジャックのみならず様々なカードゲームが対象となっており、とても読み応えがあります。もちろん当時のルールや習慣はしっかり調査済み。そして賭博といえばつきもののイカサマ。常に自分の大切な何かを賭けのテーブルに載せ続けて勝負をし続ける「賭博」というものの本質が描かれ、他方イカサマによってその勝負の価値が揺らぐ。緊張感と、「この勝負の行方はどうなってしまうんだろう?」という興味が、最後までページを捲らせてくれます。

またこれは個人的な事情ですが、私は今まで2回ほどロンドンに滞在したことがあり、読んでて「あぁあの辺か」と思いながら読めたこと、そして作品の舞台が途中から先日行ってきたバースに変わったりもするので、奇遇だなという気持ちと親近感や既視感を感じながら読めたのも楽しかったです。

ストーリーとキャラのハーモニー

しかし真に面白かったのはそのストーリーとキャラであることは間違いありません。「どうでもいい」が口癖で天涯孤独のラザルスが、リーラ、そして他の守るべきものを得て「どうでもよくない」ようになっていくさま、そして今までそのスタンスが自分を自分たらしめており、それが崩壊することで自分が賭博師でなくなっていくさま。そしてその状態から自己を再定義し、更に一段上の自分へと昇華させていくさま。そういったラザルス自身の生き様と葛藤と成長が、この作品では鮮やかな文章と圧倒的な世界観で描かれています。

主人公以外のキャラも魅力的で、1巻では「本当に最後まで喋らないヒロインが出てきちゃったよ…」と戦慄したものの、2巻以降は別なキャラが搭乗して物語はどんどんにぎやかになっていきます。中でも私のお気に入りは田舎貴族でちょっとバカっぽいけどイイ女のエディスですかね。もう絶対キャラ投票やったら一位がリーラで二位がエディスになるんじゃないかって感じです。サブヒロインとしての仕事を完全にこなしてくれてます。あとフィリーもいいですね。主人の前ではちゃんとメイドをやってるのに主人がいなくなるとオトナの女に変身するギャップもいい。単純だからこういうのに弱いんですよ。

こういったキャラがたくさん出てくる中で、そのキャラがしっかりと既存の物語やキャラに対して対称構造をとっており、キャラに興味を持ったり、キャラの謎や事件を解いたりすることで自然に物語が読めてしまう構造を作るというのは、実はとっても難しいことです。「当たり前じゃん」と思うかもしれないですが、その当たり前ができていない作品がどれだけ多いことか。「賭博師は祈らない」とあるが、じゃあ祈ることはあるのかとか、そういった細かい部分も含め、この話には対称・対立の構造が多用され、そこに無数のドラマを生んでいます。

一つの一つの言葉や行動にきちんと物語的な意味があって、その意味が必然的に一つの結末に向かっていくカタルシスというのは何物にも代えがたいものがあります。作中でも劇に対し主人公が「喜劇も悲劇も結末は必然である(意訳)」と述べる場面がありますが、この作品自体がしっかりと必然に向けて完結していく様は鮮やかとしか言いようがありません。看板に偽りなしという感じですね。

まあグダグダと書きましたが、とにかく言えるのはストーリーもキャラも世界観もすごく完成度が高くて、さすが電撃大賞だなと思える作品を読めて楽しかったということです。

これをやって「よし自分も賭博をやろう!」とは思いませんが、賭博の世界に興味がある方、イギリスが好きな方、奴隷ヒロインが好きな方はぜひ読んでみてください。5巻で完結しています。

賭博師は祈らない(電撃文庫)

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