この話は、突然姿を現して「未来からやってきた」というヒロインと、そのヒロインが追いかけているという殺し屋、そして主人公とその周りの人間模様を描く物語だ。
ただのラブコメかと思いきや、途中から結構重たい内容になっていき、サスペンスやミステリーの風味を帯びていき……と思っていたのだが、結局何にもならずに終わってしまった。
割りと期待していただけに残念だ。
話の内容を追いかけて見直しても良いのだけど、正直話としてあまり面白くなかったので、ここではどうして面白くなかったのかについて記しておく。
1.無駄なシーンと描写が多すぎる
恐らくキャラとの親密さ、主人公の置かれている状況を説明するつもりだったのだろうけど、かえって逆効果になっている。
シーン1つ1つで拾い上げるべき要素があまりにも薄すぎるので(例えばクラスのみんなで出掛けた、誰誰を探して歩きまわったとか)、読んでいて情報を頭に入れることに集中ができない。
また、無駄な描写も多いのが気になった。話を進める上で必要のない情報、どうでも良い情報が随所に散りばめられており、こちらも読者の集中力を削ぐ結果になっていると僕は思う。
恐らくだが、こういう描写はエロゲーやギャルゲーのシナリオのほうが向いている。
あっちは、無駄なことを含めて、その世界観に没入している時間を得ることを目的とするものだから。
2.キャラがご都合主義すぎる
次にキャラクター造形についても問題があると言いたい。この話では女の子が3人登場し、そのうち2人がヒロイン候補、1人が悪役……という印象なのだが、ヒロイン候補の2人が一方的に主人公を好きになりすぎている展開が、あまりにもご都合主義に思えて面白さを感じなかった。
というよりも、ヒロインの良い所が描かれなさすぎなんだと思う。
特に茜についてはそう思う。都合良い時に癒してくれる、世話を焼いてくれる様子だけでは、読者の心を引き付けるのは難しいのではないか、と思った。
その反面、アンリについては多少感情移入の余地があるんだけども、なんというのか、オブラートを投げ捨てて言うならば、キャラに魅力がないんだと思う。
3.主人公が聖人君子すぎる
この話では殺人鬼として少女が登場するが、その少女に対して、主人公は「本当はこの子は優しいんだ、誰も殺してほしくない」といった動機で接触を図っていこうとする。そのスタンスは殺されかけるときでも継続しており、どこまでお人好しなんだろうとさえ思えてしまう。
また、その結果として、話全体が「悪い人なんて居ないんだよ」的な、悪人を作らない安っぽい展開になってしまっているのも非常に残念。
主人公がダークな一面を見せるなり、ヒロインをもう少しキチガイにしてみるなり、綺麗にまとまったキャラではない、もう少し尖ったものが欲しかったと思う。
4.全体的にチープ
これは感じ方が人それぞれだと思うが、主人公、及びその他キャラのセリフがチープに感じるのが気になった。
これも多分、3にあるように、主人公があまりにも善人として描かれすぎていること、ヒロインたちがご都合主義に描かれすぎていることに起因しているのだと思う。
5.最後の展開の消化不良感
また、最後に話が終わってしまう部分についても、非常に心残りな結果だと思う。
作者があとがきで「この話はまだまだ続いていきます」と言っているが、続いていきますじゃなくて、もう少し描きようがあったのではないかと思う。
あとストーリーの流れ方も概ね予想通りだったのも残念かな。
もう少し、驚くような展開がほしかったとも思える。
分厚い本なだけに充実した物語が読めるかと思ったが、結果的には不要なシーンが多くて安っぽい作りになっていたので、非常に残念だった。
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