巷で何かと話題になっている「楽園追放」を見たかったのですが、映画館に行く余裕もなかったのでiTunesで借りて見てみました。
今こんな風にレンタルできるんですね。便利なものです。
まず感想ですが、とにかく「見ていてワクワクする」作品です。
虚淵玄の作品はまどマギがあったので、また視聴者を試すような展開があるのかと思っていましたが、そんなことはなく、実に正統派な形で構成されており、終始興奮しっぱなしでした。
というか開始5分の時点で脳内麻薬が出っぱなしでしたね。
特に「マトリックス」みたいなサイバーパンクが大好きで、かつロボットアニメ物に興味があり、ネットワークやシステムに携わる仕事をしている僕からすると、なんというんでしょう、「黒髪清楚容姿端麗成績優秀家事万能」みたいな感じの作品です。
「ガンダム」「マクロスF」「エヴァンゲリオン」「サマーウォーズ」「マトリックス」「ブレードランナー」「マルドゥック・スクランブル」このへんが好きな人は是非一回見て欲しい作品ですね。
まぁこの記事の目的は感想を書きなぐるためであって勧誘するためではないので、感想に移ります。
以下ネタバレ
この作品はまず一番最初のシーンで「おっ」と引き込まれる作品です。専門用語がズラっと来ますが、まぁインターネットをそれなりに長くやってるとか、その手の作品をよく見る人からすれば世界観は一瞬で理解できるもので、難しさがそんなにないです。
ぐわっと端末が広がるところも「ウンウン、わかる」と思いましたし、トレースルートで追跡するものの失敗するというところも「あるある」という感じで、リアル・ワールドへ行くところ、病気のシーン、足取りを追うシーンも含め、終始この「あるある」「わかる」でプロットが進んでいました。
「おっ」っと思ったのは、やはりフロンティアセッター登場のシーンからでしょうか。僕はてっきり、あの出会いのシーンに一悶着があり、壮絶なフロンティアセッターとの戦いが始まるのだろうと思っていたので、ある意味初めてそこで「おっ、きたか」と思えたわけです。
とはいえ、前半部のストーリーは結構予想可能な展開ではあるのですが、そこには意味があって、ディーバのパーソナリティとリアルワールドの人間というものの価値観の差をこれでもかっていうくらい浮き彫りにしているんですよね。
例えば、「キャリア志向(=社会のために生きる)人間」と「非キャリア志向(=自分のために生きる)」という2タイプ。「究極の合理性を求めるタイプ」と「楽しく生きるにはある程度非合理も必要だよね」というタイプ。この他にも色々タイプがあって、アンジェラとディンゴは、根本的に生きる価値観がまっっっっったく違います。そんな二人がパートナーとして絆を深めていく過程のために前半のシーンはあり、「なるほどなぁ」と思いながら見ていたわけです。
そしたらフロンティアセッターが出てきたじゃないですか。彼は人工知能なんですよね。つまり整理をすると、
- 人間であり、人間ぽいもの(ディンゴ)
- 人間だが、システムっぽいもの(アンジェラ)
- システムであり、人間ぽいもの(フロンティアセッター)
この3種類が出てくるんですよね。ここで僕は「面白いなあ」って思いました。この3人目の存在を通してアンジェラがより人間らしくなっていく。
即ち、アンジェラ(自分)にとってまったく異質なはずのロボットが、なぜかディンゴと歌で打ち解けて人間らしい振る舞いをしているんですよ。それを、アンジェラは最初は恨めしい目で見る。だけど、その心は既にフロンティアセッターに傾いてるんですよね。ここで自らの価値観が再構築されている。だからこそ、ディーバに戻ったアンジェラは政府に楯突いてしまうんですよね。
ここから、どんどんアンジェラの人間らしさが加速していく。いい表情をするようになるんですよね。これをカタルシスと言わずしてなんといいましょうか。
そしてこの3DCGで作られた迫力の戦闘シーンですよ。フロンティアセッターが不正アクセスで助けにきて、そのままアンジェラといっしょにファイアウォールを超えて地球に再突入するシーン。艦載機のアーハンを奪うところも脳汁が出てきますし、脱出から先の二人の連携プレイが見ていてとても気持ちよかったです。電磁パルスを打ち込むシーンも最高でした。
地球に帰ってきて本来の体を手に入れ、再びアーハンに乗り込むところはまさにハリウッドの演出ですよね。これからの戦いに対する高揚感と覚悟を決める感じ。そこからは怒涛ですよね。ここでの戦闘ではアンジェラが本当にいい表情をするようになっています。何度も「これ3Dなんだよね??」って思いました。
そして最後の打ち上げのシーン。
結局1人しか行けなかったんですよね。
ディンゴとアンジェラを勧誘するも、フロンティアセッターは失敗してしまいました。「今からでも数人程度乗る余裕はある」とオファーするフロンティアセッターのセリフが健気で、あぁ、なんてAIは儚い存在なんだろうなぁと、一昔前に見たAIが登場する作品に抱く感想と同じものを味わうことになりました。
掲示板などでは賛否両論あるようですが、最後にフロンティアセッターが一人で歌っているところは僕は好きです。あのシーンはすごく良かった。同時に、物凄い寂しさのようなものを覚えました。
フロンティアセッターはこの先知的生命体に出会うことはできるのでしょうか? 出来なかったら、また今までの何万日(100年くらい?)みたいに、孤独な日々を送るんでしょうかね。人間にとってそれはあまりにも過酷です。システムだったら出来るのかなぁ……と、感情移入してしまう自分がいました。
ここまででも一部触れていますが、この作品には色々な対比と皮肉が散りばめられていて、色々な気付きを与えてくれます。
まずディーバという存在が、ユートピアを求めたはずなのにディストピアになっているところが最高に皮肉です。ラストでは「更に統制を強化する」なんて言っちゃいますし、「何のためのものだよww」って思っちゃいますよね。
最初は良かれと思って始まったものが、いつの間にか大多数にとって不幸せなものになっているにも関わらず、大半の人々はそれに気付かず、上層部はより不幸を推し進めようとしてしまう……なんていう構図は、現代社会でもたくさん見かけるように思います。この辺りも、この作品の中に込められたたくさんのメッセージのうちの一つなのかなぁと思いました。
大きなメッセージは「人間ってなんだろう? アイデンティティってなんだろう?」というものだと思うのですが、それ以外にも色々な問いかけがあるので、考え始めると楽しい作品ですよね。
最後に、ディンゴが言って心に残ったセリフを書いておきます。
アンジェラの「どうしてあなたはディーバに来ないの? なぜそんな檻の中で生きていこうとするの?(中略)」という問いかけに対して始まる一連の流れの最後のセリフ。
「俺は誰かに値段をつけられ、裁かれながら生きていくなんてまっぴらだ。奴隷になってまで楽園で暮らしたいとは思わない」
耳が痛いセリフです。
みなさんは、心に残ったセリフや、つい考えてしまった点などありますか? もしあったらコメントやツイッターなどで教えてくれると、色々お話できて楽しそうです。
長文をお読み頂きありがとうございました。
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