ズレは確かに致命的だった。二度読んで、初めて解る深い愛情。: 「キミとは致命的なズレがある」読了【ネタバレ考慮済】

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記憶を失った人間が主人公の物語は数多くあり、そのいくつもが、あっと驚く意外な展開を見せてくれる。
そんな中でも、この「キミとは致命的なズレがある」は、傑出して素晴らしい作品だったといえる。例によって「ラノベとして読むと???」になる作品で、これは殆どサスペンスと言って良いはずである。

が、とにかく伏線が面白いし、読み砕いていくととても心が温まるので、ぜひぜひ読んだ上で、読後の感想シェアやわからない点の考察等、声をかけてほしい。

 

 

 

以降はネタバレ有。

 

 

 

一見すると普通のミステリー系ラブストーリーで、フタを開けてみるとガチなサスペンス。そしてもう一度読み直すと、物凄く温かいラブストーリーであることに気づく。
理解を深めるにつれて味も変わる、実に味わい深い物語だった。

まず一番感動した点。これは何と言っても、夢野咲希の愛情に他ならない。

最後まで物語を読んだ上で、夢野咲希が夢野咲希として主人公に認知してもらえる瞬間をもう一度見ると、彼女の涙は、本当に色々なものがこもった涙だということがわかる。
克也に無視され、一生懸命書いた手紙は燃やされ、会話していてもそれは脳内の「ひなた」として彼には伝わる。
「自分の存在そのものが、理解して貰えない」彼女は、いったいどれだけ辛い思いをしてきたのだろうか。

一緒に居るにもかかわらず。一緒に会話してるにもかかわらず。
いや、だって、お前は俺の想像なんだろ?」 p228

と言われた時の彼女の気持ちは、果たしてどういうものだったのだろう?
それを考えるだけで、本当に心が痛むし、彼女には心から共感できるのである。

また、山美鳥の愛情についても汲み取っておきたい。
そもそも山美鳥が母親を殺すに至った背景には、「克也が殺人犯として誤解されており、そのせいで克也が殺されるのを防ぎたい」という想いがあったことを理解すべきである。
この時の美鳥の行動原理は、克也に対する好意によるものだと僕は思う。
その割に最後に克也も殺そうとしているが、彼女にとって「好意と殺意は併存するもの」として描かれているので、克也への好意は偽物ではないと思う。
だからこその、「――それと、大好きだったっすよ」(p267)というセリフなんだと思う。

物語の全容を理解し、状況を整理した上で登場人物達の動きを改めて見直すと、ここまで素敵な物語に変貌を遂げる。
その上で、散りばめられた伏線もほぼ全て回収できているので、鮮やか、としか言いようがない。

その上で、例によってこの作品は大好きなので、個人的に若干惜しいと思った点というか、こうすればもっと素敵だったと思える点について、以下の2点を挙げておきたい。

まず1点目。雨笠と美鳥の恋愛をもう少し描いてほしかったこと。
雨笠がホモっぽいというネタが若干安直なのもそうだが、もっと雨笠と美鳥の恋愛を詳細に描き、ふたりとも是非最後のパトカーで逃げてほしかった。
この話では、雨笠は最後のシーンで変貌した美鳥を見て憔悴しきっているが、そうではなくて「それでも美鳥のことは好き」という展開が見たかった。
そのまま一緒に行けば「共犯者」になるけど、それでも構わない、っていうある種投げやりな愛情があったって良かったのではないか、と僕は思った。
(ちなみに男女揃って「共犯者」的な設定が僕は物凄く好きです)

そして2点目。
これは何と言っても、「夢野咲希が浮かばれなさすぎ!」というところだろう。
折角認知してもらったのだから、咲希は自分がいかに辛い思いをしてきたかを語り、それに対して克也が詫び、そこで和解するシーンが欲しかった。
その上で、改めて友達として付き合うなり、恋人として付き合うなりしたほうが話のスジは通っていると僕は思う。
単純に美鳥の代わりに咲希が居ます、っていうだけのエピローグは、僕にとっては少々味気なかった。

他のレビューなどを見る限り、「殺人の理由が解らないから」等で本作品を低く評価しているものがあるが、そこで本作品を低く評価するのはお門違いだと言わざるをえない。

僕は、人を殺すことも、自分が死ぬことも、本質的には同じ意味を持っていると思う。
だからこそ、フラっと衝動的に死ぬ人間が居るように(衝動的に自殺する人の気持ちは、僕は結構理解できる)、フラっと衝動的に人を殺す人間が居てもおかしくはないなと思えてしまう。

そもそも、人をフラっと殺せてしまうその感性こそ、この作品のテーマである「致命的なズレ」なのだから。

記事の品質向上のため、感想をお聞かせください。

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