「活字で出来た映画」レベル。鮮やかな描写と心を揺さぶるストーリー。「世界の終わり、素晴らしき日々より」読了【ネタバレ考慮済】

この本は「高国」という国と日本が戦争をしている最中、突然世界から人が大勢いなくなった世界を描いた話。
登場人物は主に2人の少女。元軍人で17歳のコウと、12歳のチィ。二人は出会ってからずっと、ピックアップトラックで旅している。

この本を読んでいてまず最初に感じたのは、とにかく描写が丁寧だということだ。
世界から人が居なくなって風化していく町の様子を持て余すことなく、その場の臭いが活字から浮かび上がってくるほどリアルに描写している。
その上で、人物の行動、会話される場面や場所、その一挙一動全てが「絵に」なっていて大変美しい。
また、随所に散りばめられた比喩表現もスパイスが効いており、登場人物のセリフの小気味よさにも枚挙にいとまがない。
ぜひアニメ映画として見てみたいと思う。

この時点で、充分にこの本は「買い」である。

さて、ストーリーは概ね、この二人の日常を中心に描かれており、途中から超展開になるようなことはない。
しかし、寝食を共にして平和な生活を送る二人の描写と共に、常に「高国」、つまり敵軍の存在をほのめかす描写がなされており、話の緊張感はダレることなく上手く続いている。
また、途中から高国側の兵士も登場してエピソードが語られ、コウと兵士が敵同士として対峙する場面では、非常に複雑な感情を呼び起こすことになった。
最後のシーンも非常に良い。

ストーリー、設定共にほぼ文句なし。非常に素晴らしい作品だからぜひ購入を。

……と言いたいところなのだが、僕は正直この作品をかなり気に入ってしまったので、更にレビューを続けて書くことにする。
ネタバレも含まれるので、この先のレビューは読了後か、読まないこと前提の人のみが読むと良いと思う。

さて、この話の情景描写がとても素晴らしいので、僕が最も印象に残ったセリフと情景を1つずつ。

1つめは、途中でコウたちと合流する年上の女性、上野のセリフ。彼女もまた軍人で、好きだった彼のことを探していた。
しかしその彼が戦死していることをコウに告げられて上野は表情を失う。
でもその後の去り際に言った言葉、 

デートに遅れた馬鹿をひっぱたいてくるわ

このセリフは、正直反則級にカッコイイなって思った。憧れる。
後述するが、この話で一番好きなキャラは順に、上野さん>>チィ>>>コウである。

2つめのシーンは、高国の兵士とコウが命を賭けた戦闘の後、高国の兵士を倒した後。
コウは満身創痍の身体を引きずって穴を掘り、兵士の身体をその穴に埋め、上からライフルを刺して墓にする。

その、自分が殺した兵士の墓の前にきて彼女は、夜1人で墓に話しかける。
「あんたって幾つだったの? 名前は? 好きな食べ物は? 得意な科目は? 好きな人はいた?……」

この独り語りのシーンは、見ていて本当に心を揺さぶられた。
その前に兵士の育ってきたエピソードも描写されているので、余計に。

そして最後の「一緒にいきたい!」のシーン。
これはもう涙するしかない。というか泣いた。
12歳という少女しか持てない無垢な愛情と優しさを、最高のタイミングで最大限に発揮できていると思う。
期待したどおり、心を動かされる出来だった。

というかシーン作りが上手すぎる。

……しかし一方で、話の作りの甘さも存在するので、そこも挙げておく。
まず、コウのバックグラウンドがさっぱり解らない点。これは非常にマイナス。というか残念すぎる。
作中でコウは、「人を殺すことを何とも思わない少女」として描写されているが、最後まで、結局どうしてそうなったのかが描写されていない。
更に、コウは日本の国民ではないようだが、それについても一切描写がなされていない。
コウがどうしてこうなったのか、いったい何のために日本にいるのかについてもう少し描写が無いと、多くの読者はコウに感情移入できないだろうし、事実そういったレビューが目立つ。非常に残念だと思った。

また、途中のシーンで銃を置き忘れるシーンがあるが、仮にも軍人の彼女が銃を人の家に置き忘れるなんてことがあるだろうか? その置き忘れた銃が原因で人が死ぬのに、流石にそれは不自然だろうと思った。
あと、結局この世界はどうして人が居なくなったのかについても一切説明がないので、世界観やバックグラウンドについては消化不良になってしまう。

続編が出て解明されるのなら良いけど、だとしても1巻でもう少し設定の出し方はあったよなぁと思う。

ただ、その辺のマイナス部分を差っ引いても、この作品の雰囲気と描写は間違いなく素晴らしいし、僕はこの作品を好きだと言える。
何よりこの本の作者、僕と同い年だ。

そっか、もう同い年で小説家が出てきてもおかしくないんだなぁ……。

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