常識破りの珍部活。対照的な2つのコミュニティが織り成す青春小説:「学校の階段」読了(ネタバレほぼ無)

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この小説は「階段部」という部活動がある学校で繰り広げられる出来事を綴った小説だ。
「階段部」とは、学校内を走り抜け、そのタイムを競い合う部活動で、最短・最適なコースの選択や、障害物となる生徒(人)を避ける技術が要求される部活動、という設定である。
そんな部活に入部した主人公が、廊下を走る喜びを知っていくという物語だ。

「階段部」の設定で「上手いな」と思うのは、以下の2点だ。
まず、「レース」の要素を上手くラノベに入れられること。往々にして、男子は競争が好きだ。その競争の典型が、「レース」だと僕は思う。
しかし一般のレース、例えば自動車レースは、高校生だと運転そのものが出来ず難しい。SF的な乗り物のレースにすると現実味がなくなり、設定資料も量に必要になるだろう。
設定資料が大量に必要になるということはそれだけ説明が必要で紙面を圧迫し、それは結果的に話を薄っぺらくする要因になる。
シンプルに「走る」ということをルールとし、その場を「学校」に選んだ作者のセンスは非常に素晴らしいと思う。

また、体育会の要素を上手く取り入れつつも、文科系読者に嫌われない部活としても「階段部」は優秀だ。
「サッカー部」にしろ「野球部」にしろ、一般的に既に存在する部活動は、独特のバイアスで部員や部活動そのものを見てしまう人がいる。
文科系、というかぶっちゃけていうと、「運動」若しくは「運動部」が苦手なオタクからすれば、その手の部活動はどうしても敬遠してしまう。
だからこそ「階段部」という、非現実と現実のボーラーラインを走るような活動を作った時点で、まず設定面で大勝利だと僕は思ったわけだ。

さて、そんな「階段部」だが、ストーリー全体としては割と一般的な流れで進行すると言って良い。
しかし、競走のシーンはやはり躍動感があったし、随所に散りばめられた伏線も上手に機能しており、飽きずに最後まで読むことができる。

ただこの話のラノベにしては珍しい点として、「ヒロインが明確でない」ということを一つ特筆しておきたい。

この話は部活動に入った1年が主人公なのだが、同じ1年で女生徒はおらず、居るのは上級生ばかり。
つまり、「既に、主人公が身をおく主コミュニティの人間関係が一部完成している」のだ。
もっと言うと、「女の先輩と男の先輩の間に、既にただならぬ雰囲気を感じる」のだ。

第一巻ではその「ただならぬ雰囲気」については深く触れられていない。
「友達(というか道連れの仲間)を作ってハイ部活作ったよ!」という話はいくつかのラノベで見られるが、そうではなく、こういう「既存の人間(恋愛)関係の中に加わる」という要素をあえてラノベに入れている点は、割と型破りだと個人的には感じた。
(が、一方で、現実的すぎるのでやめてほしいなと思ったりもする。誰と誰が付き合ってるのか分からない、恋愛について突っ込んで良いのかどうか分からない、とかそういうのリアルだけで充分だから……)

また、そんな若干不穏なコミュニティと対照に、主人公には家族として4人の姉妹が同居しており、そこでも人間模様が展開されることに留意しておきたい。
家庭というのは、やはり気楽だ。自分のことを常に承認してくれる人たちがいるのだから。そんな家庭でも諍いは生じる。だけど、やはりその根底には流れるのは家庭的な全承認に基づく愛情なのだ。
だからこそ、部活動では本気で戦える。
部活と家族。この対照的なコミュニティを行き来することで、主人公はより厚みのある人間になっていくに違いない。

キャラについては、前述したようにコミュニティが2つ存在するので、登場人物も多く正直混乱する。
が、怒りっぽいけどアツくなりやすい主人公を始め、主要部活メンバー、家族共に上手に人間性を出していけているので、さほど違和感は抱かなかった。

ちなみに僕が一番好きなキャラは、現段階では、執行部の中村さんである。かわいい。

いずれにせよ、第一巻にしては内容が充実していたし、二巻以降もぜひ読んでみたいと思う小説だった。

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